この町が僕の故郷である、という実感があまりなかった。生まれてから人生の大半をずっとこの町で過ごしていたのに。
電車で 10 分で東京に出られてしまうぐらいにお手軽な場所に位置しているので、独り立ちして都会暮らしするのに気張る必要もないし、帰ってくるときもそれほど挫折感 を伴わないはずだった。
「はずだった」と書いたのは、現実はそれとは違っていたから。本当は、この 1 年あまりのうちにこれまでの人生最悪の経験をした。逃げるようにして東京から実家に戻った。悔しくて涙が出た。本当は親が死んだときぐらいじゃないと男は 泣いちゃいけないのだけれど。でも僕はこの町で癒された。それはやっぱり、この町が僕の故郷だったからなんだろうか。たとえそれが僕なりの無理矢理なこじ つけだったのだとしても、この町は、僕の故郷です。
自信を持ってそう言えます。